─── 激しくグルーヴする熱い演奏がしたい
…ジャズを志す人なら誰もが夢見ているグルーヴ。だが問題は『熱い演奏』がなかなか思った通りに出てこないことだ。激しいグルーヴを安定して確実に出すためにはどうすればいいのだろうか ─── それは『数える』ことだ。
だが演奏中にどうやって数えればいいのかといわれると、なかなかはっきりとイメージできないものではないだろうか。この記事では具体的にどのようにするのが安定したグルーヴを得る効果的な数え方なのか説明してみた。
数えれば数えるほどグルーヴする声出しカウントの魔力
しばしば『黒人はリズム感がいい』と言われる。だが彼らは決してリズムを感覚だけで捉えているわけではないようだ。ダイナミックに激しく動きながら演奏する黒人を見ると、とても感覚的にリズムを捉えているように見える。だがよく観察してみると彼らは演奏中、しばしば数字を口ずさんでいる。彼らは案外と理論的にリズムを認識しているようだ。ここでは彼らがどうやってリズムを認識しているか順を追って見ていきたい。
数える凄腕ミュージシャン達
実は彼らはリズムをはっきりとした数字で捉えている。そのことを以下のビデオで見てみよう。現在ネットで検索すると黒人の名プレーヤーのクリニック・ビデオがたくさん見つかる。彼らが口を酸っぱくして言っていることは『数える』ことだ。
ブーツィ・コリンズの数え方
ブーツィーコリンズは「4つ数えて、その間に音符を入れていく」といいながら、それを実演している。
クリス・コールマンの数え方
以下は「クリス・コールマン」という黒人教会のゴスペルドラマー(通称ゴスペルチョッパー)のドラム・クリニックのビデオだ。このビデオは非常に長いのだがとてもよいアドバイスが多く含んだとても良質なクリニックだ。以下で発言の内容を一部だけ書き起こしてみた。引用 ─── Q:いつも不思議なんですが、どうやったら緊張しないでいられるのでしょうか。僕は演奏するとたまにすごく緊張して、元のリラックスした状態に戻るのが凄く難しいのです。曲の途中で難しい箇所が来たりする時なんか特になんですが…。これを解決するのに何かいい方法があったりしますか?
A:数を数えることですね!(会場笑う)いや冗談ではなく本当にそうなんですよ! 練習中に声を出して数えることです。よく「カウントして下さい!」とアドバイスすると、最初の半小節くらい「ワーン・ツー」と数えて辞めちゃう人が多いのですが、そうじゃなくて練習中最低でも3時間は声をだして数え続けることが大切なんです。意味がわかりますか?
何の為にやるのかというと鍛える為にやるんです。その問題に集中する能力を鍛えるんです・・・つまりもし彼女が「1234」と数えて、君がそのテンポで「1234」と数えたとすると、それは音楽の中でひとつの『大きな幸せ家族』みたいなものに変化するのです。ところがもし君になにか不幸があって息が止まろうとしている時、彼女が(大きく目を見開き顔をまじまじと見ながら)「1234」と元のテンポのまま何も変わらずに数えていたらどうでしょうか。
とにかく数えることですよ! 数えることが一番音楽にとって大切なことなのです。ブラシで演奏するときでも(スティックで)爆音で激しいビートを演奏するときも、数えることが一番たいせつなんです。 常に声を出して!数えることです! 無言のドラマーがいい演奏をした試しはないんですよ!
誓っていうけどドラマーの問題の80%は数えていないことだよ。
───引用終わり
引用 ─── Q:(前回の質問者と同じ人が)キックドラムを演奏するときにビーターが一度に三回連続で当たっているのですか?
A:いやーーー… (あまりテクニックにばかり集中するのは良くないと思うんです!)そこにこそバランスが必要だと思うんです(テクニックは重要だけど)もし僕がテクニックにばかり集中していたらどうでしょうか。あまりテクニックばかりに集中すると、音楽が見えなくなってしまいます。 もし音楽が(といいながらリズミカルにドラムを叩く)こういう風な演奏を求めていたとしても、僕がもし数えていなかったら(といいながらフットペダルを注視しながらリズムのないドラムを叩いてみせる)こうなってしまうではないですか。これでは誰も聞く人いないですよ!
数えているからこういう演奏が(といいながら数えながらドラムを叩いてみせる。会場拍手!)できるんですよ! 数えているから何を演奏するべきか見てくるのです。音楽はどうやって感じるかを教えてくれるけども、そのふたつをひとつにまとめて ─── つまり… 音楽に対する理解があって、数えている数字上の理解があって、そのふたつをひとつにまとめる技術を磨かなければいけないのです。
それは音楽に対する理解の上に成り立っているんです!
なぜならひとつのテクニックだけでは音楽は作れないからです。(といいながらバスドラムを連打して)「ねえみんな!ちょっと待ってください! いや僕は今日、ペダル持ってきてないんですが、ちょっと見てください!ちゃんとテクニックは正しく実行しているんですよ!おかしいなぁいい音楽にならない…。」とこういう人がいたら多分、ステージから降ろされてしまいますから。 ─── 引用終わり
引用 ─── Q:もし誰かが『ドラマーにとってこれだけは外せない練習方法をひとつだけ選んでくれ』と尋ねたらなんて答えますか?
A:『数える!』(会場「またか」と笑う)もうとにかく数えることの大切さをどうやって伝えたらいいのかわからないです。 実は僕は前、数えなかったんです。何年もの間こんな感じで(といいながら数えないでドラムを叩いてみせる、会場笑う。)数えることで心の目を開き、問題に焦点が合うようになるのです。そして自分が何を演奏しているのか聞こえるように見えるようになって、そしてそれが理解できるようになる… 数えれば数えるほど素晴らしい演奏ができるようになるのです。
だから「ひとつだけ選べ」と言われたら、もうとにかくドラムなんか放っておいて「数えること」ですよ。
だって(ものすごい勢いでキックドラムを連打する)「僕、こんなテクニカルなことができるんですよ」「で君、1拍目はどこ?」と聞かれて「えっ?! いや知らないです。」とかいうようでは仕方がないもの。「君! それは確かに素晴らしいテクニックの訓練だけど! でそれを曲のどこに入れるの?!」 「えっ?! いやよくわからないです。」
わかるでしょ? とにかく『数えること』! ─── 引用終わり
※ クリス・コールマンはこのクリニック中で3度もカウントする重要性を述べている。氏は「カウントする重要性はいくら強調してもしすぎることはない」という。
※ このビデオでクリス・コールマンが語った内容について次の記事でもう少し踏み込んで書いたので御笑覧頂けたら幸いだ。クリス・コールマン ─── 教会音楽の名ドラマー
ロン・クラーク学園の生徒たちの数え方
※
この音楽ビデオ後半に撮影の様子が収められている。彼らはこのダンスMVの撮影中、音楽を聞かずにみんなで声を出してカウントするだけで踊っている。良いミュージシャンは音楽に乗っているだけでは不充分で、むしろ音楽なしで自分からグルーヴを発する。カウントすることはグルーヴすることそのものなのだ ───
そう痛感させられるビデオだ。
ロン・クラーク学院はアメリカ南部にある私立学校。ある若い先生ロン・クラーク氏があるテレビに番組に出演したことがきっかけで有名になり本を執筆。その印税を元に設立したのがロン・クラーク学院だという。
ビリーズ・ブートキャンプの数え方
ビリーズブートキャンプで背後のお姉さんを指導するビリー
欧米の人達(やアフリカ・中東・東南アジアの人達)はしばしば無意識のうちに
- いーち
- にーさん
- しーご
- ろーくしち
- はっちいっち
- いっちに
- さーんし
- ごーろく
- しっちはち
アジア人の数え方(タイ編)
- あ・さーんしーいちにー
- あ・さーんしーにーにー
- あ・さーんしーさんにー
- あ・さーんしーしーにー
- いっちにーさーんし
- にーいにーさーんし
- さーんにーさーんし
- しーいにーさーんし
この様に日本人の頭合わせリズムの習性は、決してアジア人が皆等しく持っている習性ではない。
メトロノームを使って数えよう!
メトロノームを2拍4拍で鳴らそう
メトロノームを鳴らして練習するというとしばしば1234拍目にならしたり、1拍3拍目に鳴らしたりして練習するのではないだろうか。これは実は僕が日本を出て気付いたことのひとつなのだけども、このメトロノームの鳴らし方は日本人に独特な感性らしい。ではどうやって鳴らすのだろうか。海外のロック・ポップス・特にジャズのミュージシャンは2拍目4拍目でメトロノームを鳴らすことが多いようだ。
このビデオがとてもわかりやすい。このビデオはカントリーだが基本的なリズムのとりかたはジャズでも共通だ。
このリズムのとり方には色々な呼び方があるが『アフタービート』や『ツー・フォーリズム』などと呼ばれることが多いようだ。このリズムは西洋音楽の影響を受けたアフリカ系のミュージシャンが発展させたもので、初期では黒人教会音楽として発展した。
ゴスペル音楽の数え方
以下は現代のゴスペル(米国の黒人教会音楽)のビデオだ。これが今の世界中の全ポピュラー音楽のリズムの原型になった。 では実際に『ツーフォーリズム』の例を見てみよう。
メトロノームを2拍目4拍目で鳴らして、同時に声を出して数えてみよう。
ゴスペルドラマーのクリス・コールマンがよくクリニックで実演して見せてくれるので、それを見てみよう。
クリス・コールマンの数え方の実演を見てみよう
終わりに
数えると疲れる?!
最初、声を出して数えながら演奏するとものすごく疲れる。最初やってみるとすぐにわかるが、息があがってしまい10分も続かない。
───
だけどこれを頑張って習得すると、実は全く疲れなくなる。『数えると疲れる』というのは、体に無駄な動きがある証拠なのだ。実は疲れてしまうのは体力の問題ではない。
数えながら演奏しても全く疲れなくなった時、どんなに速いテンポで演奏しても全くリズムが狂わなくなった自分に気付いて驚くはずだ。
『良いリズム』を出すということは、実は非常に『楽』なことなのだ。
更新記録:
ビリーズブートキャンプのビデオを追加した。(Wed, 28 Aug 2019 23:23:17 +0900)
タイ語の数え歌ビデオを追加した。(Wed, 28 Aug 2019 23:30:52 +0900)
クリス・コールマンの言葉の日本語訳を追加した。(Sat, 14 Sep 2019 13:31:19 +0900)
不要な能書きが多いので、余分な文を全部削った。(Sat, 14 Sep 2019 13:55:02 +0900)
大幅に加筆訂正を行った。(Sat, 14 Sep 2019 14:19:27 +0900)
タイトルを『グルーヴとは数えることそのもの』から『数えれば数えるほどに巧くなる!ジャズ』へ変更した。(Sun, 15 Sep 2019 05:12:51 +0900)
タイトル画像を変更した。(Sun, 15 Sep 2019 05:35:01 +0900)
クリス・コールマン ─── 教会音楽の名ドラマー へのリンクを追加した。(Thu, 21 May 2020 06:05:24 +0900)
段落を整理した。(Sat, 22 Aug 2020 12:16:39 +0900)
タイトルを『数えれば数えるほどに巧くなる!ジャズ』から『みるみるグルーヴしはじめるリアルジャズのカウント法』に変更した(Sat, 22 Aug 2020 12:30:49 +0900)
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